スピッツが『おるたな』で聞かせるカバー魂

遅くなりましたがスピッツ『おるたな』のレビューを2012年の一発目に書きたいと思います。
正直なところ、シングルを全て購入している自分にしてみれば6曲収録されたカバー(でも「さすらい」「14番目の月」と*1が収録されたCDは購入しているので実質は3曲)が一番の聞きどころで、少々甘く見ていたのですが、『おるたな』は想像以上の素晴らしい仕上がりになっていました。
「タイム・トラベル」はドラマの主題歌で耳にしていたのですが、改めて腰を据えて聞いてみると歌詞の世界観は素晴らしくスピッツ的。でも草野正宗が使いそうで使わない単語(例えば「ニューヨーク」とか「ハリウッド・クィーン」)が妙に新鮮に響いて面白い仕上がりになっています。初恋の嵐「初恋に捧ぐ」は、まるでスピッツの楽曲として新たに生命を吹き込まれたかの様な出色の出来。この曲をこのタイミングでカバーするセンスも素晴らしいのですが、初恋の嵐というバンドを風化させない為に一役買う様な意義深いカバーだと思います。「さよなら大好きな人」は選曲の妙ですが、これも予想以上に嵌っていて、草野正宗のボーカルに焦点を当てたアレンジが成功しているといえると思います。まあ、とにかく共通してスピッツ色に染め上げているのは、やはりスピッツというバンドの持つバンド力の素晴らしさだと思います。今作『おるたな』ではカバー曲が大々的に収録されていますが、元々スピッツのカバー曲には定評があって、「I'm proud」のカバー(アルバムには未収録)なんて最高でした。その辺の経緯や歴史はディレクターの竹内修による『おるたな』制作ノートに綴られているのでぜひ購入して読んで見て下さい。というか『おるたな』の正確なレビューは制作ノートで事足りているとも言えます。
カバー曲ばかりに話題が集中しましたが、既発のシングルのカップリング等の楽曲のクオリティも相変わらずで、個人的にはやっぱり「三日月ロック その3」が悶え苦しむほど最高。そしてリコリスで始まり「オケラ」で終わるアルバムの構成も見事で、一枚のアルバムとしてのトータルクオリティも流石。非常にバランスが良く、既存のリスナーと新規のリスナーどちらにも求心力のあるスペシャルアルバムとしては大成功の仕上がりだと思います。中途半端なカバー曲をやっているアーティストは『おるたな』のクオリティを見習わないと。

おるたな

おるたな

*1:「12月の雨の日」は今作ではミックスされて(おるたな Mix)として収録