Arctic Monkeysの『Humbug』の誇る鉄壁ロマンティック

遅くなりましたがArctic Monkeysの新作『Humbug』のレビューでも。

Arctic Monkeysのサードアルバム『Humbug』は誰が聞いても分かる様にスローで重くて暗い。とは言ってもそれだけのアルバムかといえばそうではなくて、非常に面白い作品になっています。まず面白いのはサウンドとメロディが両極端に振れているという事。メロディには強力なサビは全くないもののひたすらメロウでAlex Turnerが今まで以上にしっかりと歌を歌っているのが特徴的で、一方のサウンドの全体像はとにかくヘビー。特にリズム隊にはその傾向が顕著で、沈み込むようなリズムで全ての楽曲が占められてます。ギターのリフも相変わらず印象的ですが、『Humbug』に関してはトリッキーなリズムパターンを鉄壁のリズム隊が支えており、飛びぬけて目立っています。このサウンドとメロディの対比こそが『Humbug』の面白い部分で、歌メロのロマンティックさは The Last Shadow PuppetsでのScott Walkerの影響下からの流れを汲んだ古典的なものだし、サウンドの深化も前作『Favourite Worst Nightmare』の路線を推し進めると必然的に『Humbug』の様なサウンドに辿り着くだろうし、その辺を顧みれば、Arctic Monkeysが決して大きく変化したというわけでなく、至極真っ当なサードアルバムを作り上げたといえるのではないかと思います。あと歌詞の世界観も何となくボンヤリとした砂漠の蜃気楼の様なイメージで今作のサウンドにもシッカリとはまっているのも、ポイントは高いと思います。
とまあここまで書いてから妹沢奈美氏のライナーを読んでみたら同じ様な記述(タイトルの『Humbug』(ハムハグ)はイギリスで売られているキャンディで、そのキャンディがハードで中がとろりとしている事から、Arctic Monkeysのハード・サイドとロマンティック・サイドの二面性と結び付けている)があって、やはりその辺の対比がハッキリと出ているのが『Humbug』の最大の特徴で、その辺を楽しめるかどうかでこのアルバムの評価は分かれるのだと思います。
実はこの『Humbug』を聞いた時に頭に思い浮んだのはWheatus『The Lightning EP』という作品で(恐らく思い浮ぶ人はほとんどいないと思うけど)、そのサウンドのベクトルは違うにせよ強力なサウンドプロダクションに支えられたメロウなアルバム(強力なサビをあえて排除している部分も含めて)という点で大きく類似しているアルバムだと思いました(あとArctic Monkeysは80年代のポストパンク、Wheatusは80年代のハードロックからメタルに影響を受けているという点で80年代を消化したバンドであるという事も)。
思えばファーストアルバム『Whatever People Say I Am, That's What I'm Not』が2006年発売、セカンドアルバム『Favourite Worst Nightmare』が2007年、そして『Humbug』が2009年発売というのはoasisのサードアルバムである『Be Here Now』までの発売の間隔と似ていて、Arctic Monkeysもまた四年で三枚のアルバムを完成させ、全てをUKチャートの1位に送り込んでいます。未だに二十代前半であるArctic Monkeysが成し遂げたその事実はもちろん評価されるべきなのですが、これ程のテンションを保ちながらバンドが解散せずに真直ぐに成長してきたという事が何よりも奇跡的で、Arctic Monkeysが2000年代後半を代表する唯一無比の存在になった事を『Humbug』は証明しています。

国内盤には2曲のボーナストラックが収録。自分は輸入盤が届くのが遅れそうだったので、結局キャンセルして国内盤買いました。今作に多大な影響を与えたであろうNick Cave and the Bad Seedsのカバーである「Red Right Hand」は一聴の価値あり。

ハムバグ

ハムバグ

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