Arctic Monkeysの『Suck It And See』で感じる隔世遺伝
Arctic Monkeysの『Suck It And See』が非常にメロウな作品になっていたのでご紹介。
先行シングルだった「Brick By Brick」を聞いた時には、前作『Suck It And See』の流れを汲むへヴィーなサウンドをイメージしていたのですが、ところがどっこいメロディとボーカルに重きを置いたアルバムに『Suck It And See』は仕上がっていました。へヴィーなサウンドが印象的なのは前述した「Brick By Brick」や「Don't Sit Down 'Cause I've Moved Your Chair」ぐらいなもので、全体的には非常にメロディと歌が耳に残るボーカルアルバムとして成立しており、Arctic Monkeysの今までの良いところを凝縮したアルバムであるとともに新境地が開けていると思います。ギターの音色もリフ主体だった今までに比べると、歌うようにしなやかでメロウだと思いますし、ギターバンドとして軸がぶれないままにその幅は確実に今作『Suck It And See』で広がったといえると思います。多くの人がベストトラックに挙げるであろう「She's Thunderstorms」と「The Hellcat Spangled Shalalala」のメロディは印象的で、近年のAlex Turnerのソロ作品『Submarine EP』やThe Last Shadow Puppetsで見られていたロマンティックな側面を上手くバンドのサウンドとして消化できていると思います(実際に『Submarine EP』に収録された「Piledriver Waltz」が『Suck It And See』ではバンドサウンドとして再構築されている)。「Fluorescent Adolescent」の様な曲が好きな自分にしてみれば『Suck It And See』で聞かせてくれたサウンドの進化は歓迎ですし、2006年のデビューからコンスタントに作品を作り続けているArctic Monkeysの活動と、Alex Turnerの才能が改めて評価される作品になったのではないかと思います。
それにしてもAlex Turnerまだ25歳なんですよね。デビューが早かったというのもあるのですが、彼のボーカルは年々艶やかに深みを増していっているし、サウンドのクラシックな雰囲気もあって、サウンドの影響をすっとばして隔世遺伝してしまった様な印象を受けます。もちろん、現代風のアレンジやサウンドの影響、ボーカルスタイルも消化されているのですが、2010年代において競い合ったり同レベルで比較の対象になる様な存在のアーティストは思い当たりません。Arctic Monkeysが稀有な存在である事は確かなのですが、『Suck It And See』を聞いているとArctic Monkeys以降の喪失感を浮かび立たせてしまうという側面もあって、そういう意味では考えさせられる罪作りな一枚なのかもしれません。
- アーティスト: Arctic Monkeys
- 出版社/メーカー: Hostess Entertainment
- 発売日: 2011/06/07
- メディア: CD
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