Elbowの『Build a Rocket Boys!』に染み渡る構成力

今やイギリスの国民的なバンドになった感のあるElbowの新作『Build a Rocket Boys!』を聞いています。
Elbowは前作『The Seldom Seen Kid』がMercury Prize(マーキュリー・プライズ)を獲得し、今回の新作の発売も本国では大きな注目を集めていました。2008年のMercury PrizeはRadioheadIn RainbowsAdele『19』などの強豪がひしめく中での獲得でしたので、この受賞がキッカケで元々地味ながらも評価の高いバンドだったElbowを一気にポピュラーな存在に押し上げたといえると思います。
今作『Build a Rocket Boys!』は前作と比べて基本的な路線には大きな変化はないのですが、どちらかといえばエレクトロな質感が増しており、全体を通した印象が少し変わってきています。エレクトロな質感といってもヒンヤリとした感じではなく、壮大さはあるものの暖かみのあるサウンドを構築しているのが、Elbowが他のバンドと一線を画している点で、独自のサウンドを生み出しています。『Build a Rocket Boys!』はタイトルからも感じる事が出来るように、Guy Garveyが幼少期に影響を受けた事が深く関係している様で、サウンドの持つノスタルジックな印象や暖かみはその辺から来ているのかも知れません。
また、『Build a Rocket Boys!』は過去のElbowの作品同様、一度聞いただけでは地味な印象が残るのですが、繰り返し聞いていく中で感じる中毒性の高さは今までの作品の中でも一番ではないかと思います。各収録曲についてみていくと、アルバムの冒頭を飾る「The Birds」から8分の長尺の大作なのですが、尺の長さをあまり感じる事無くエレクトロな感触がジンワリと体に侵食していく様な楽曲で、独特の浮遊感を感じさせてくれています。続く「Lippy Kids」も陸続きになっているような静かな楽曲ですが、美しいメロディが印象に残る一曲。次曲の「With Love」は重厚なゴスペル調のコーラスのリフレインが印象的で、徐々に盛り上がっていくアルバムの中で道標になるような楽曲になっています。そして次の「Neat Little Rows」で畳み掛けるようにアップリフティングな楽曲が登場し、アルバムは一気に最初のクライマックスを迎える事になります。アルバムの中盤は再びエレクトロな感触が印象に残る楽曲や穏やかなメロディが印象的な楽曲が、比較的コンパクトに連なっており、その後の高揚感のあるゴスペル調のコーラスが圧倒的な「Open Arms」で再びアルバムのピークを作りながら、「The Birds (Reprise)」を挟んだ後に「Dear Friends」で大団円を迎えます。この様に緻密に練られた構成は見事な仕上がりだと思いますし、Elbowのアルバムをトータルで聞かせる能力というのは本当に素晴らしいものがあると思います。
この様に非常に良質なバンドであるElbowですが、例の如く日本盤の発売は未定のようです。思えば、前作『The Seldom Seen Kid』にしても本国の発売から一年以上経過し、Mercury Prizeの獲得が決った後にひっそりと発売されていました。『Build a Rocket Boys!』も素晴らしい作品なので、今度はもう少し早いタイミングで国内盤が発売される事を願います。
kidからBoysの流れも素敵。

Build A Rocket Boys!

Build A Rocket Boys!