weezerの『Raditude』を楽しむ為の予備知識的なレビュー

先週から聞けていなかった音源のレビューを追いかけていましたが、ちょっと中断。weezer『Raditude』を購入したのでレビューを書いてみたいと思います。
前作『Red Album』から一年少々という短いスパンで発売されたweezerの新作『Raditude』。ブラウンアルバムなんて名称も持ち上がっている犬のジャケットが印象的な通算7枚目のアルバム『Raditude』ですが、前情報通り、完全なパワーポップアルバムになっていました。基本的には先行シングルの「(If You're Wondering If I Want You To) I Want You To」の路線でアルバムは構成されており、パワーポップリスナーには歓迎されそうな内容に仕上がっています。過去のweezerのアルバムでいえば『Green Album』から『Maladroit』の時期の作品を推し進めていった内容で、明らかに実験的で意欲的な部分が見られた『Red Album』の路線を一端脇に置いて一気に作り上げた印象が残ります。個人的には『Red Album』「The Greatest Man That Ever Lived (Variations on a Shaker Hymn)」weezerの今後の可能性を見ていただけに、複雑な部分もあるのですが、これはこれで割り切って聞いていける作品ではあります。
とはいえ、『Raditude』が意欲作ではないかといえばそうでもなくて、Lil Wayneをゲストに迎えた「Can't Stop Partying」(この曲のデモは『Alone II: The Home Recordings of Rivers Cuomo』に収録されていたので発展形として収録されている)からも顕著の様に、エレクトロな要素やHip Hopの要素を加えてあったりと、アクセントとしての新しい一面は盛り込まれており、プロデューサーもJacknife LeeButch Walkerだけでなく、Dr. Luke、Jermaine Dupri、Polow Da DonとHip HopやR&B色の強いプロデューサーを起用する事で、パワーポップ一辺倒ではない幅が加えられています。また『Red Album』ではRivers Cuomo以外のメンバーの楽曲が多く収録されたのですが、今作はPatrick Wilson作の「In the Mall」を除きRivers Cuomoの作品ではあるものの、作曲面での共作であったり、歌詞を完全に外注している曲もあり、外部の血が多く入れられた作品ではあるので、オーソドックスなパワーポップアルバムを下敷きに、実験的な要素が加えられたアルバムだともいえるかもしれません。
Rivers Cuomoの良好な精神状況を示しているかの様にポジティブな『Raditude』サウンドは、weezerの持つ陽性な部分を浮かび上がらせているのですが、そのタイトル(Rad+Attitudeの造語)から分かるように泣きの部分は完全に影を潜めてしまっています。リフ主体のギターサウンドが主役になっている為、ギター自体が減っているわけでは無いのですが、以前のweezerに比べるとギターサウンド自体は印象に残らないので、『Blue Album』『Pinkerton』からの熱心なリスナーからすると物足りない部分はあるかもしれません。
先行シングルになっている「(If You're Wondering If I Want You To) I Want You To」Amrita Senのコーラスとシタールが効いている「Love Is the Answer」(この曲はSugar Rayの新作『Music for Cougars』にも提供されている)、weezer流のラップ調ロックの「Let It All Hang Out」の3曲が出来が良いと思います。
正直なところweezerの待望の新作!というよりあまり深く考えずに楽しむべきポップアルバムだと思うし、この路線自体は悪いものでは無いのですが、Rivers Cuomoが少し器用貧乏というか、才能があるだけに何でも出来てしまうという面が発揮されているので、精査に精査が重ねられ一つの路線を極めた作品を聞いてみたくはなります。とはいえ、バンドが解散の危機にあった時期や作品が出なかった時期に比べてリスナーには確実にその音源が届く訳でして、そういった意味ではこの短い期間で届けられた作品は嬉しくもある訳です。結果として『Raditude』は悩ましくも楽しいアルバムになっていると思いますし、他のアルバムを聞くキッカケには十分に成り得るアルバムに仕上がっていると思います。
ちなみに国内盤は今のところ2枚組のデラックスエディションのみの発売。ボーナスディスクは4曲入りで目玉は原一博(例のメリクリの作曲者)との共作「The Underdogs」。この楽曲が意外と良い。エイベックス所属のアーティスト(EXILE「Carry On」、「HERO 」、「EXIT」の作曲はこの人)からジャニーズの楽曲まで手掛けている原一博とはいえ、weezerとの取り合わせはどうかなと思いましたが、これが意外とはまっており皮肉なくらい良いバラード(サウンドプロダクションはバンドサウンドではなく、やっぱり日本のポップス風味にはなっていますが)に仕上がっています。他の3曲もアルバムに収録されていても不思議ではない佳曲といったところなので、興味がある方は2枚組の方をお勧めいたします。

ラディテュード

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