エレファントカシマシの『悪魔のささやき〜そして、心に火を灯す旅〜』の落差に痺れる

2010年に書き逃したエレファントカシマシ『悪魔のささやき〜そして、心に火を灯す旅〜』のレビューでも。
そのタイトルから分かる通り、今作はエレファントカシマシの両極端なサウンドの志向がハッキリと打ち出された作品で、各楽曲のサウンドの振り幅は広いものとなっております。『悪魔のささやき〜そして、心に火を灯す旅〜』は近年のエレファントカシマシの作品に欠かすことの出来ない蔦谷好位置が全面的に参加しており、エレファントカシマシ蔦谷好位置が生み出すサウンドの総決算的な内容に仕上がってます。
オープニングを飾る「moonlight magic」がいきなりの軽快なアコースティックサウンドで意表を突かれるのですが、非常に美しい宮本浩次のボーカルが冴え渡る良曲で、次曲の「脱コミュニケーション」がハードな楽曲だけに、いきなり冒頭から落差のある展開を聞かせてくれます。シングルとして発売されていた楽曲もアルバムの中で効果的に配置されており、Rolling Stonesチューリップ(つまりPaul McCartney)がぶつかり合う様な「いつか見た夢を」は開放感に満たされて聞こえるし、アルバムのエンディング前に感動的に響く「幸せよ、この指にとまれ」もアルバムの中でもう一つのエンディングの様な重要な役割を担っており、思いっきりメロウでミディアムテンポの楽曲と「脱コミュニケーション」「悪魔メフィストの様に激しいサウンドと渾然一体になる事で、存在感を増しているように感じます。また、全編に渡り蔦谷好位置のストリングスアレンジやキーボードに加え編曲能力が発揮されている事が、アルバムの構成力の高さに一役買っており、両者の相性の良さが最大限に発揮されている様に思います。アルバムのメインテーマともいえる「旅」という楽曲は、メロディはポップなのですがハードなサウンドの中に転調の面白さもあって、吐き捨てるような宮本浩次のボーカルと重なり合って非常に印象に残ります。エレファントカシマシの両極端な表情を併せ持った、「旅」の様な楽曲がアルバムを代表するトラックの様に感じられるところが、このアルバムの勘所になっており、同時に新たなエレファントカシマシの可能性を聞かせてくれている様で非常に頼もしく感じます。
正直、2010年に発売されたシングルは耳にしていたものの購入には至っておらず、既発の楽曲が6曲収録されている『悪魔のささやき〜そして、心に火を灯す旅〜』だけに、この事がアルバムを聞いた時の新鮮さに繋がっていたのも確かなのですが、その辺を差し引いても圧倒的に濃密なアルバムの内容と構成を聞かせてくれており、ベテランバンドながら新鮮な驚きを与えてくれるエレファントカシマシの凄みを改めて感じる事が出来ます。
ちなみに今回のアルバムはライブDVDとセットになった初回盤が2種類発売されており、自分が購入したのはライブが完全に収録された初回盤Aなのですが、定価は4500円と高額。しかし、いつものAmazonマジックで通常盤とほとんど変わらない価格で買えるので、こちらをお勧めします。昨今のエレファントカシマシの音源は様々な付加価値を付けて高めの値段設定になっていますが、DVD付きが割引になる事を考えれば不満は言えないところ。もちろん、音源のみの通常盤のCDが安価で販売されるようになる事が一番ではあるのですが。