Beady Eyeが『Different Gear, Still Speeding』で生み出した三人の黄金比

Beady Eye『Different Gear, Still Speeding』のレビューを気合入れて書いて見ます。
これは凄く良いアルバム。単純に凄く良いアルバムだなというのが第一印象。 今更Beady Eyeに関しては細かな説明は必要ないかと思うのですが、メインソングライターがバンドを脱退した末の新バンドにも関わらず、前バンドの幻想を一気に払拭したという珍しい成功例だと思います。
まず、全体を通してLiam Gallagherのヴォーカルの出来が素晴らしい。全体を通して表情が豊かで伸びやかなボーカルは、前バンド時代よりも出来が良いのではと感じる人も多いと思います。アルバムの全体を見ると、前バンドで見られてた長尺の曲が減り3分前後のコンパクトな曲が増えました。もちろん、ポイントポイントで長尺の曲はあるのですが、『Different Gear, Still Speeding』の大多数は短い楽曲なので、矢継ぎ早に楽曲が耳に飛び込んで来る事で、全13曲のボリュームが長過ぎず短過ぎずという丁度エエ感じに収まっていると感じます。歌詞自体も単純な単語のリピートが増えたと思いますし、レトロな楽曲で占められた『Different Gear, Still Speeding』の雰囲気にはマッチしているのではないかと思います。そして何よりも前バンドで翳っていた爽快感というか、突き抜けるようなロックンロールの魅力を『Different Gear, Still Speeding』では随所で感じられる為、シンプルで飾りの無いサウンドながら、抗えない魅力を生み出す事にBeady Eyeは成功していると断言出来ると思います。
各楽曲に耳を移すと、誰もが認めるであろう名曲は「The Roller」「The Beat Goes On」で間違いないと思うのですが、それぞれの楽曲がアルバムの中でシッカリとした役割を担っており、そのサウンドとは裏腹に全体のバランスがシッカリと考えられている印象を受けます。アルバムの冒頭を飾る「Four Letter Word」は、アルバムの一曲目に相応しいロックチューン。続く「Millionaire」は軽快なフォークロックサウンドで前曲との落差が気持ち良い。両曲ともAndy Bellが作っている事から分かる通り、『Different Gear, Still Speeding』Andyは非常に素晴らしいソングライティングを発揮していると思います。「The Roller」Gem Archerが今までに作った楽曲の中で一番アンセムな輝きを放つ名曲。Beatles and Stones」Liamにしか名付ける事が出来ないであろうそのタイトルにビックリさせられたけど、内容は「My Generation」の様なベースラインでThe Whoの様な楽曲なのも面白い。Gemが作った「Wind Up Dream」はギターがネットリと絡みつくコーラスで、どちらかといえばこちらがStones風の楽曲。「Bring the Light」は先行で公開されていた兎に角「ベビカモン」な一曲。「For Anyone」Songbirdの系譜でLiamJohn Lennon志向がハッキリと打ち出されている佳曲。今作に収録されているLiamの楽曲では自分はこの曲が一番好きかもです。「Kill for a Dream」は正統なサイケデリックサウンドを感じるAndyの楽曲でアルバムの中盤でアクセントになっています。「Standing on the Edge of the Noise」サイケデリック路線を踏襲したグラムナンバー。Gemが元々組んでいたHeavy Stereoサウンドに近い原点回帰の一曲。「Wigwam」Liamの新境地で緩やかで優しげなサイケデリックと浮遊感が素晴らしい佳曲。「Three Ring Circus」はギターソロがカッコ良いライブ映えしそうなGemの一曲。Beady Eyeサウンドは全体を通して生々しく、ギターサウンドも素晴らしいと思うのですが、それが一番ダイレクトに伝わる楽曲。「The Beat Goes On」は圧倒的なメロディの魅力を持った名曲。前バンドと比べると劣ってしまうだろうと考えられていたメロディの質を見事に保った楽曲で、Andyのキャリアの中でも間違いなくトップクラスの楽曲だと思います。「The Morning Son」The La's「Looking Glass」を思わせる様なアルバムの最終曲に相応しい大曲ですし、Chris Sharrockのドラムも冴えていると思います。
という事で、『Different Gear, Still Speeding』は前バンドが創作面では圧倒的に偏ったパワーバランスで成り立っていた事を考えると、Beady Eyeは非常に健全なバンドサウンドの様に感じますし、抑制から解放された三人のソングライターの能力がぶつかり合う事で新たなバンドマジックが生まれているのは確かだと思います。というか、四人のソングライターを要していた前バンドがその武器を最大限に使いこなせなかった事を考えれば、Beady Eyeで三人の魅力が拮抗して発揮されているのは、奇跡的で素晴らしいバンドマジックだと思います。誤解を恐れずに書けばLiamは一生懸命にJohnを目指しているし、AndyBeady Eyeの中でのPaulGemGeorgeの立ち位置になっている訳で、そのソングライティングの能力は比べられるものではなくても、この奇跡的なバランスはThe Beatles黄金比に非常に近いものがあると思います。
Beady Eye『Different Gear, Still Speeding』サウンド的に革新的なものでなくても、最終的には多くの人々の心に残るものになるだろうし、2011年は大物アーティストのアルバム発売が続くのですが、『Different Gear, Still Speeding』の様なクラシックなロックンロールアルバムが2011年には受け入れられるのではないかと考えています。前も書きましたが、想像通りのサウンドを想像以上のクオリティで作り上げたアルバム。個人的には絶対支持。
国内盤は既発の2曲がボーナストラック。アルバムの全体の構成は13曲で終わった方が良いのですが、良曲なので国内盤をお勧めします。DVD付いていて安いですし。

ディファレント・ギア、スティル・スピーディング(初回生産限定盤)(DVD付)

ディファレント・ギア、スティル・スピーディング(初回生産限定盤)(DVD付)