Manic Street Preachersの『Postcards from a Young Man』が飲み込んだそのキャリア

Manic Street Preachers10枚目のアルバム『Postcards from a Young Man』がめでたく発売されたのでご紹介。
最初に聞いてみた感想は、物凄く良いバランスのアルバムだという事。前情報でストリングスが大々的に使われているとの事だったのですが、大ヒットした『This Is My Truth Tell Me Yours』の様なアルバムでもなく、前作『Journal for Plague Lovers』で到達したサウンドとも全く違う。敢えて言うなら、前々作『Send Away the Tigers』に近いといえば近いのですが決して同じ路線とは言えずに、むしろ後期Manic Street Preachersのエッセンスを絞り込んだような一枚で、つまりもう『Postcards from a Young Man』Manic Street Preachersの完全無欠の新作としか表現出来ない仕上がりになっています。
アルバムの前半部で特にストリングスは印象的に使われているものの決して饒舌でなく、全ての楽曲がポップではあるものの、凡庸なポップさではなくクラシカルで、アルバムの後半で印象的に鳴り響くギターは相変わらずカッコ良い(「All We Make Is Entertainment」のギターなんて最高)。そんなManic Street Preachersの魅力を余す事無く封じ込めた様な『Postcards from a Young Man』は、多くのミュージシャンが目指すであろう、2枚目のデビューアルバムの様に聞こえます。
『Postcards from a Young Man』は豪華なゲスト陣が参加している事でも話題も呼びましたが、Ian McCullochがボーカルで参加した「Some Kind of Nothingness」にしても、John Caleが参加した「Auto-Intoxication」Duff McKaganが参加した「A Billion Balconies Facing the Sun」と、アルバムに彩りを加えながらも、全く違和感無く自然にアルバムに収まっており、自分達のサウンドに大きな影響を与えたアーティスト達をしっかりと受けきれています。また、Nicky Wireがボーカルを取る「The Future Has Been Here 4 Ever」も驚くほどアルバムに溶け込んでいるし、逆にJames Dean Bradfieldが歌詞を書いた「I Think I Found It」にしても同じ印象を受け、ソロ活動が完全に本体のバンドの作品に生かされながらも一体化している稀有な例で、この点も特筆に価すると思います。
全体を通して『Postcards from a Young Man』サウンドプロダクションの面でのバランスの良さや、コーラスワークと楽曲の調和が際立っており、表情の変わる前半部と後半部の間に「Golden Platitudes」という王道的なバラードを挟み、「I Think I Found It」という軽快なマンドラが印象的で、アルバムの中でアクセント的な役目を果している楽曲へと続き、ギターサウンドに繋がる構成も見事だと思うのですが、これはやはり、バンドとプロデューサーとの共同作業の賜物。アルバムのプロデュースはManic Street Preachersの作品に数多く携わっている旧知のDave Eringa(ちなみに彼はIdlewildの傑作『Post Electric Blues』を始め、多くのIdlewildの作品にも携わっている)で、Manic Street Preachersサウンドを凝縮させるという点でも、彼以上の適任者は居なかった様に思います。
『Postcards from a Young Man』は前作から僅か1年4ヶ月で発売されたアルバムで、前作『Journal for Plague Lovers』で完全に過去との決別を果した事で、信じられないくらい振り切れて突き抜けたサウンドに仕上がったのは確かだと思うのですが、Manic Street Preachersの総括でありながら新たな旅立ちの一枚に仕上がったアルバムを、この短いスパンで完成させたのは、驚異的と言うほか無いですし、結果的に初めてManic Street Preachersを聞く様な人達にも即効性の高いアルバムに仕上がっているのが嬉しいところ。
国内盤のボーナストラックである「Red Rubber」は良曲で、Manic Street Preachersの場合やっぱり対訳が欲しくなるので国内盤がお勧め。

Amazonでは表記が分かり難いですが、前作に引き続きボーナスディスクが付いているのはこちら。
Postcards from a Young Man

Postcards from a Young Man

豪華過ぎる贅沢品のこちらもいつかは欲しい。
Postcards from a Young Man, Super Deluxe Edition

Postcards from a Young Man, Super Deluxe Edition