『R-1ぐらんぷり2010』が残した残尿感と不安感

一言で言うと今年のR-1グランプリは低調でした。
正直なところ、まるでサバイバルステージを見ているかの様な錯覚に陥る程に、笑いの絶対量が少なかった様に感じました。兎に角、バカリズムのネタが不発だったのが大きくて、COWCOW山田與志の細かいミスで流れを掴みきれないままで終わった空気そのままに上げきらずに終わってしまいました。何故準決勝までのネタを一本目に持ってこなかったのかは本人にしか分からないですが、一本目のネタのチョイスとして疑問が残ったのも確か。恐らく、フリップ芸が目立った今回の出演メンバーを考えてコント中心のネタにしたのではないかと思うのですが、非常に「残尿感」が残りました(それも計算の上なら凄いけど)。ということで、この時点で7〜9番目の出演者がそのまま決勝に進む予感が高まったのですが、予想以上に全体を通してフワフワと時間が過ぎてしまい、全く爆発力を感じない波乱の無い展開になってしまいました。
あべこうじの優勝はエハラマサヒロなだぎ武の二本目のネタと比べて完成度が高く(というか両者共にネタが粗く、それを補うべき爆発力ある笑いも生まれなかった事であべこうじの完成度の高さのみが浮き立った)、納得の優勝だったのですが、今までのあべこうじのネタと大きな変化がある訳ではなく、変化が無く変わらない完成度の高さを保ち続けた事が今回のR-1の場合は功を奏した形に見えてしまい、今年のあべこうじが飛びぬけて優れていたわけではなく、他の出演者のネタに飛び抜けたものが無かったという印象が残りました。あとはR-1に掛ける執念というか、想いが一番強かったのがあべこうじだったのは明らかで、他の出演者からその強い想いは感じられなかった事も勝負を分けた要因になったと思います。
今回のR-1を見ていて思ったのは新鮮味が圧倒的に欠けていたという事で、変な安心感はあったのですが、今後の大会に大きな不安を残す結果になったと思います。今までの大会には新たな笑いや驚きがあり、決して得点に繋がらない馬鹿馬鹿しさや突き抜けた何かを感じる事があったのですが、今年に関してはそれは感じませんでした。R-1はM-1と違い出場の縛りが無いですし、どこかで線を引かないと回を重ねるに連れて出演者が積み重なっていく部分があるし、新たな笑いが生まれ難くなってくるという弊害が見えてきた大会だったのではないかと思います。

あと、話題になっている板尾創路の採点(採点が話題に中心というのも悲しい話)ですが、単純に「毒」という板尾創路なりの基準があって、そこに新しさなどのプラスアルファの要素が加わった順番に点数が高いのだと思えば、軸は全くぶれていない様に感じます(例えば高得点だったグラップラーたかしネタなんて、一見分かりやすい紙芝居というシチュエーションでアントニオ猪木というフィルターを掛けていますが、相当「毒」のあるネタだし)。お笑いの審査の価値基準においてそれは間違いとはいえないですし、彼の得点で大きく順位が左右してしまったわけではないので問題は無い様に思います。それよりも昨年問題になった得点のインフレを考えなかったトップバッターの97点の採点の方が問題かと。

以下採点の詳細。
伊 板 石 清 三 高 三 | 合
東 尾 井 水 郎 田 枝 | 計
90 92 95 98 98 95 93 | 661 1 なだぎ武(出演順7番目)
94 83 97 97 96 95 96 | 658 2 あべこうじ(出演順9番目)
85 92 98 96 97 93 94 | 655 3 エハラマサヒロ(出演順8番目)
88 85 93 94 96 94 95 | 645 4 川島明(出演順5番目)
92 82 91 95 95 94 92 | 641 5 いとうあさこ(出演順3番目)
88 91 92 94 94 93 90 | 639 6 グラップラーたかし(出演順4番目)
84 85 94 94 94 93 86 | 630 7 バカリズム(出演順2番目)
82 96 88 88 93 90 91 | 628 8 我人祥太(出演順6番目)
83 84 92 93 97 90 88 | 627 9 COWCOW山田與志(出演順1番目/敗者復活枠)