Calvin Harrisの『Ready for the Weekend』が持つ親近感

書きそびれていたCalvin Harris『Ready for the Weekend』のレビューでも書いてみる。
セカンドアルバムである『Ready for the Weekend』がUKでもチャート1位を獲得し、一躍スターになってしまったCalvin Harrisですが、日本ではイマイチ盛り上がりきれていない気がします。『Ready for the Weekend』は改めて聞いても、今年のナンバーワンのダンスアルバムである事は間違いないと思うけど、このアルバムの素晴らしいのは、全ての楽曲がダンスミュージックを超えて、ポップミュージックとして高機能であるからだと思います。歌詞のほとんどが愛や恋で占められていますし、そこにいるのは25歳(「I'm Not Alone」で歌っている通り、25歳には見えない風貌ではあるけど)の健全なるオタクな男子の実像で、どちらかといえばナード的な物語は今まではロックンロールの文脈の中で語られる事が多かった世界観ではないかと思います。つまり、大仰な世界観を描く様になってきたロックバンド、ひいてはポップミュージックの代役としての役目を『Ready for the Weekend』は果しているともいえ、Calvin Harrisが次世代のポップアイコンとして祭り上げられるのも必然ではないかと思います。全ての楽曲が3分前後で簡潔にまとめられている(もちろん、フロア対応のリミックスは長尺で存在している)のも、Calvin Harrisの音楽が全方位に向けられている証拠だし、ベットルームアーティストだったCalvin Harrisが華麗に躍進を遂げた一枚に『Ready for the Weekend』は仕上がっています。デビューアルバムである『I Created Disco』は良い意味でのチープさがあったのですが、『Ready for the Weekend』ではかなり洗練されたサウンドに変貌しており、この事に関しては是非があるとは思います。しかし、今作『Ready for the Weekend』では、高機能なサウンドを上回るほどの親しみやすいメロディがありますし(Calvin Harris自身がしっかり歌っているのも大きい)、前作以上に多くのリスナーに届く1枚といえると思います。
あと、どちらかというと前作『I Created Disco』がエレクトロなポップミュージックという佇まいだったのに比べると、ソウルフルというかファンキーな印象を受けますので、より血肉がかよっている様に聞こえます。これはPrinceを敬愛するCalvin Harrisだからこそのアプローチだと思うし、これだけシンセサイザーを多用しているにも関わらず、軽いだけのサウンドに聞こえないというのは素晴らしいと思います。*1
過度の期待は禁物ですが、Calvin Harrisは自身にキッカケを与えたKylie Minogueや敬愛するPrinceの様な時代を代表するポップスターになり得る可能性を持った数少ないアーティストだと思うので、今後の活動にいやがうえにも期待が高まるのですが、本人は至って飄々とマイペースに楽しんでいる様で、それがまた彼の魅力なのだなと思います。
ボーナストラックのリミックスも充実しているので国内盤も良いかと。

レディ・フォー・ザ・ウィークエンド

レディ・フォー・ザ・ウィークエンド

シングル「I'm Not Alone」はアルバムと共に年間ベストの季節を賑わせそう。

*1:という事でFelix Da Housecatの『He Was King』はPrinceがモチーフになっていたり(「We All Wanna Be Prince」という楽曲も収録)、Prince自身も『LOtUSFLOW3R』を発売していますし、2009年はPrinceイヤーだったと言えなくもないかと。