Jamie Tの『Kings & Queens』の縦横無尽な音楽マニアっぷり

若干出遅れましたが、Jamie T『Kings & Queens』をご紹介。
最初に書いておきますが、今イギリスのシンガーソングライターで一番面白いのはJamie Tだと筆者は思っていて、セカンドアルバム『Kings & Queens』に対する期待は高かったわけです。ファーストアルバム『Panic Prevention』はパブロックの親しみやすさを持ち合わせながらも、HipHopをセンス良く消化したアルバムで、同時にシンガーソングライターとしての魅力も詰まった良作だったわけですが、結論から言えばセカンドアルバム『Kings & Queens』は更にその上をいく傑作に仕上がっていると思います。
基本的に『Kings & Queens』は前作『Panic Prevention』の延長線上にある作品なのですが、そのサウンドの軽やかさやJamie Tの歌声(リリック)の冴え、親しみやすさを増したメロディの質は完全に前作を上回っています。サウンドプロダクションも前作の流れを継承した、柔らかさと暖かみのある宅録魂に満ち溢れたもので、若干クリアになったかなという印象は受けるものの、非常にJamie Tの音楽と相性が良いサウンドに仕上がっていると思います。全ての楽曲にライブ盤の様な生々しさがあるのはJamie Tのサンプリングのセンスによる部分も大きいと思っていて、サンプリングで使われたAngelic UpstartsJoan Baezの楽曲は元々がライブ盤の様ですし、他にもThe Rockin' BerriesNine Below Zero(!)、そしてBonzo Dog Doo-Dah Band。さらにはTrouble Funk(2008年に中心人物のRobert Reedが亡くなっているので追悼的な意味合いもあるのかな?)などなどの楽曲がサンプリングされています。ジャンルから考えてもパンクからパブロックからファンク・ゴーゴーからフォークへと振り幅の広いサンプリングでJamie Tの音楽マニア振りも遺憾無く発揮されています。
シングルになった「Sticks 'N' Stones」の様にポップさが抜きん出た楽曲の一方で、「Chaka Demus」から「Spider's Web」、「Castro Dies」への楽曲の流れではまるでCornershopの様なサウンドを展開させていたりと、全体を通してオリエンタル色が強い事も『Kings & Queens』の特徴で、サウンドの幅がグッと広がった印象を受けます。『Kings & Queens』は楽曲が粒揃いなのに加えて、まんまEarth, Wind & Fireと名付けられたタイトルの楽曲があるように遊び心を失わず、ジャンルを縦横無尽に飛び回る様な作品なのですが、多作なJamie T(シングルのカップリングとそのクオリティから考えても物凄いと思う)は軽々と今作以上のアルバムを作り出す予感があります。既に本国イギリスでは『Kings & Queens』のセールスも好調の様で、チャートでは2位を記録するなど、非常に健全なチャートアクションを見せており、Jamie Tは名実共にトップアーティストになってしまいました。それに対して歌詞対訳が必要とされるJamie Tの様なアーティストなのに国内盤が発売される気配が無いという、この国のもどかしさは一体どういう事?。とまあ愚痴を溢したくなるほど『Kings & Queens』は良い作品なのでぜひ聞いてみて頂けたらと思います。
Jamie TはPVもライブも楽しいアーティスト。という事でライブDVDが付属したこの商品を購入。

Kings & Queens-Deluxe Edition

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