Travisの『Ode to J. Smith』でFrancis Healyが描いたロックバンドとしての本質を考える

先日ご紹介したLittle Man Tateとは状況がかなり違いますがTravisもメジャーレーベルを離れて一年四ヶ月という短いスパンで『Ode to J. Smith』という思い切った作品をリリースしました。世間的には先行シングル「J. Smith」の過去のTravisには無かったサウンドに戸惑うファンも多くセールスも振るってはいませんが、個人的にはTravisのアルバムの中では1、2位を争う出来だと感じたのでご紹介。

『Ode to J. Smith』のラフに仕上がった音像に惑わされる方も多いのですが、実は今作の楽曲のメロディ自体は非常に良く書けていると思っていて(少なくとも今までのTravisの作品と比べて劣っているということは無い)、Nigel Godrichのプロデュースした作品より自然体でロックバンドとしてのTravisの本質が剥きだしで見えて興味深い。このアルバムを11曲36分でまとめている(日本盤はボーナストラック一曲収録)のも凄いし、マスタリングまで僅か五週間で作り上げられただけあってバンドの勢いを存分に感じさせながらも良質なメロディを失わないのも驚異的。多分今作を受け入れられない人はオーケストラや上っ面のプロダクションに耳を奪われすぎなのではないかと思うし、終盤にはしっかり従来のTravisのイメージに近い「Song to Self」「Before You Were Young」そして日本盤のボーナストラックである「Sarah」のような楽曲も並ぶわけだし(とはいっても従来のTravisに比べると音自体が極くシンプルだけど)、落胆するような出来ではないと思うのですが。
『Sgt. Pepper's Lonely Hearts Club Band』の発売40周年の企画で「Lovely Rita」をカバーしたことがきっかけで『Ode to J. Smith』の制作が開始されたと聞いてコンセプトアルバムをイメージしていたのですが、どこかの誰かを寓話的に描いた短編を曲の数だけ生み出すいつものFrancis Healyの手法でこの作品は作られており、Francis Healyがひとりの音楽家としてもっとも充実した時期を迎えているのは間違いなく、『Ode to J. Smith』こそがTravisの歴史を総括した作品として後に評価されるのではないかと思います。

オード・トゥ・ジェイ・スミス

オード・トゥ・ジェイ・スミス

TravisのPVってそのバンドイメージと裏腹に面白いものが多くて嬉しい。その歌詞を含めてこのセンスをもった日本人のアーティストって見当たらない気がします。
J. Smith - Travis