Philip Selwayのソロアルバム『Familial』から聞こえてこないドラム

RadioheadのドラマーであるPhilip Selwayのソロアルバム『Familial』が想像以上の仕上がりだったのでご紹介。
Philip Selwayは既にNeil Finnのプロジェクトである7 Worlds Collideに参加し、『The Sun Came Out』というアルバムで今作『Familial』にも収録されている(※若干バージョンが違う)「The Ties That Bind Us」「The Witching Hour」という楽曲を披露しており、個人的には何の違和感も無くアルバムを聞けたのですが、初めてPhilip Selwayの音楽に触れる、例えばRadioheadのリスナーなどは驚いたのではないかと思います(『The Sun Came Out』に関しての当ブログのレビューはこちらから)。Philip Selwayの囁く様な優しいボーカルに、限界まで削ぎ落としたかの様なシンプルなサウンドはある意味新鮮で、ドラマーのソロアルバムなのにドラムのサウンドが全く気配を感じないのも興味深く、不思議な浮遊感を持ってアルバムは進行していきます。非常にメロウな楽曲が多いのに、一般的なシンガーソングライターの作品の様に楽曲に直接的な熱を持たせるのではなく、ヒンヤリしている様で、緩やかに暖かくなる様な感覚を持ったアルバムである点は、ロックバンドという形式を取りながらも全く別次元のサウンドを鳴らしているRadioheadに共通している様に思います。
この様な作品に『Familial』が仕上がったのは、7 Worlds Collideでの活動の影響も大きくて、実際にアルバムに参加しているLisa GermanoSebastian SteinbergGlenn KotchePat Sansone等は7 Worlds Collideからの繋がりですし、7 Worlds Collideでの活動が無ければ今回のアルバムも世に出る事は無かったのではないかと思います。また『Familial』では、Philip Selwayがドラマーであるが故に敢えてドラムの持つビートを封印した様にも聞こえますし(実際にPhilip Selwayは1曲しかドラムを叩いていない)、タイトルに『Familial』を掲げながらも、異形に侵食された様なグロテスクとも思えるジャケットを起用しているのも逆説的で、Philip Selway独特のセンスを感じる事が出来ます。
便宜上、Radioheadのドラマーという肩書きがしばらくは付いて回ると思うのですが、実質Philip Selwayのソロキャリアを確立し、シンガソングライターとして確固たる一歩を踏み出したアルバムに『Philip Selway』は仕上がっており、新たなる才能が7 Worlds Collideをきっかけに世に出た事を非常に素直に嬉しく思います。

Familial

Familial

同じソロアルバムでも先日紹介したFran Healy『Wreckorder』と比べると、どちらのミニマムで落ち着いたアルバムなのに、全く異なったベクトルを持った作品に仕上がっているのも非常に興味深いです。