Teenage Fanclubの『Shadows』が切り取った変わらない風景

Teenage Fanclubの5年振りの新作アルバム『Shadows』を聞いています。自分はTeenage Fanclubに関しては特別な思い入れがある人間で、特に『Grand Prix』というアルバムに関しては人生でベスト20に入るくらいプレイヤーに乗せたアルバムだと思います。Teenage Fanclubはそのバンド名とは裏腹にキャリアが長いバンドなので、今作『Shadows』で初めてTeenage Fanclubを聞く人というのは少数で、基本的には暖かな古参のリスナーに支えられたバンドだといえるかもしれません。
前作『Man-Made』John McEntireがプロデュースという事で、Teenage Fanclubとしては異色の部分も目立ち、そのサウンド処理には賛否両論があった様に思います。自分はTeenage Fanclubの暖かみのあるサウンドが好きなので、音の処理的には今作『Shadows』の方が好きで、その穏やかで染み入るメロディを最大限に活かすには、やはり今作の様にアナログな音の感触が合っているのではないかと思います。Teenage Fanclubの作品ではNorman Blake、Gerard Love、Raymond McGinleyの三人のソングライターが作った楽曲が、次々に入れ替わりながら収録されてる事がお馴染みで、当然『Shadows』でもこの手法が使われています。三人のソングライターにはそれぞれに特徴があるものの、今作『Shadows』に関しては、全ての楽曲が均一に統一感を持って収録されている印象を受け、三人の楽曲がシッカリと肩を寄せ合った様な作品に感じます。先行シングルとなった「Baby Lee」を筆頭にシンプルで飾り気の無いストレートな愛の歌達がアルバムの中核を担っており、アルバムを一聴する限りでは地味に感じる人もいると思いますし、確かに飛び抜けて際立つ様な楽曲はないのですが、アルバムのまとまりの良さでいえばTeenage Fanclubの作品の中で上位に食い込む作品に仕上がっていると思います。
本来なら新作である『Shadows』を積極的に薦めたいのですが、Teenage Fanclubに関してはやはり初期の作品から聞いていって頂いてそのサウンドの変化を楽しんで頂きたいと思います。基本的にどの作品もメロディは際立っているので聞きやすいと思うのですが、ディストーションギターの渦の中からこぼれる様なメロディが最高だった『A Catholic Education』『Bandwagonesque』のアルバムがあって、橋渡し的な『Thirteen』を経て結実したのが『Grand Prix』というアルバム。歌心が爆発した『Songs from Northern Britain』の後に新たなバンド像を模索した『Howdy!』Jad Fairとの共作の『Words of Wisdom and Hope』、そして前作『Man-Made』があった上で辿り着いたのが今作『Shadows』ですので、そのキャリアを追ってきたリスナーでないと見えてき難い円熟味が今作『Shadows』には詰まっていると思います。Teenage Fanclubはよく変わらないバンドだとは言われますが、これだけのキャリアの中で変わらない訳は無くて、厳密に言えばTeenage Fanclubの良心でもあり核になる部分だけは変わっていないと思います。その変わらない部分を抽出して逃げずに向き合いながら熟成された作品が『Shadows』だと思うので、本当の意味での深みが加わった今後のTeenage Fanclubを生涯味わっていきたいと思います。
国内盤には2曲のボーナストラックが収録。全くアルバムの全体のバランスを壊していないのでお勧めできます。

シャドウズ

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