Ian Brownの『My Way』が示した我が道っぷり

Ian Brownの6枚目のアルバム『My Way』がそのタイトル通りの我が道を示した作品だったのでご紹介。
ソロでのキャリアが確立し、もはや元Stone Rosesの肩書きが必要無くなった感のあるIan Brownの最新作『My Way』。本人が敬愛するMichael Jackson『Thriller』にインスパイアされた作品との事ですが、直接的な影響というより、その精神性や生演奏を主体にしたとは思えないサウンドのクリアさ、そしてアプローチというか方法論としての『Thriller』『My Way』には息づいているように思います。 この事により、Ian Brownの作品で一番R&B、ヒップホップに接近した作品に仕上がったのは確かで、プロダクション自体もロックのフォーマットを感じさせないものに仕上がっています。プロデューサーは旧知のDave McCrackenですが、シングルになった「Stellify」ではF.E.A.Rで見せた相性の良さを発揮しており、プロデュースだけでなく今作でも多くの楽曲で共同制作というクレジットでアルバムに貢献しています。
「Stellify」という楽曲自体はRihannaに書き下ろしたものらしいのですが、予想以上に良い仕上がりだった為に自分で歌う事になったという楽曲。ちなみにBeyonce『I Am...Sasha Fierce』にもDave McCrackenは参加していたり、Jay-Zが立ち上げたRoc Nationというレーベルにもソングライターとしての契約がある様で、そこからRihannaへの楽曲提供の話へ繋がったのだという事(ちなみに「Vanity Kills」という楽曲はKanye Westに書き下ろしたものだったらしい)。
『My Way』は全体を通してメロウなアルバムでもあって、その全体のバランスの良さは恐らくソロキャリア最高のものではないでしょうか。ウエスタンテイストを現代風に昇華したカバー曲である「In The Year 2525」Zager and Evansの1969年のヒット曲。Ian Brownはシングルのカップリングとして「Billie Jean」「Thriller」をカバーしていましたが、アルバムにカバー曲が収録されたのはStone Roses時代を含めて初めてのはず)はアルバムの中でアクセントとなる良カバーですし、Stone Roses時代を自らが振り返ったような歌詞の「For The Glory」が収録されていたりと、全体を通して郷愁が感じられる正にMy Wayな作品であるのですが、中でも最終曲の「So High」Ian Brown流のゴスペルソングに仕上がっていて感動的。Ian Brownの歌は調子っぱずれと揶揄される通り、決してピッチが決まっているものではないのですが、どんな時も柔らかく独特の高揚感があり、それは一貫して変わっていないし、今作『My Way』では冴えまくっていると思います。楽曲の中で面白かったのはORANGE RANGENAOTOと共作した「Always Remember Me」で、薄っすらとシューゲイザーを感じながらも浮遊感とスケールを感じる楽曲で、アルバムの中でも存在感を放つ楽曲になっています(そして、この曲が一番バンド時代の残り香を感じさせるというのも興味深い)。
冒頭でも書いた様にIan Brownはソロアルバムを六枚発売し、既にStone Roses時代のキャリアを優に超えるソロキャリアを重ねています。その作品のどれもが高い水準を保っていますので、未だにStone Rosesの文脈でのみ語られたり(今年に限ってはThe Stone Roses発売から20周年のリマスターもあって仕方ない部分もありますが)、イメージだけの上っ面でStone Roses以降のIan Brownを語られるのをみると少々落胆してしまうのも確か。あれだけシーンの中心にいたバンドのフロントマンが解散後の11年で6枚のアルバムを発売し、尚且つ確固たるソロキャリアを築き上げているのは賞賛に値するし、その事実を正面から評価すべき。『My Way』を聞いて、プロデュースがいただけないとかヴォーカルをフニフニに処理しているとか曲に覇気がないとか書いてる場合じゃないと思いますけどね(どう聞いてもそうは聞こえないけどな、自分は)。

マイ・ウエイ

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お猿が率いるマーチ隊。兎に角イアンはアディダスが似合う。