Prefab Sproutの『Let's Change the World with Music』は悲しみの果てで鳴るポップミュージック

まさかの新作という表現がピッタリのPrefab Sproutのアルバム『Let's Change the World with Music』
前作『The Gunman and Other Stories』の発売が2001年だったので実に8年の月日が流れてしまっているわけですが、『Let's Change the World with Music』は長い年月を経た事すら感じさせないアルバムに仕上がっています。
オープニングからいきなりのラップで始まる為、従来のリスナーは驚きと肩透かしで『Let's Change the World with Music』を迎える事になるのですが、その後は変わらぬキラキラとしたPrefab Sprout節で全編が占められています。Prefab Sproutはもはや中心人物のPaddy McAloonのソロプロジェクトに近い形になっている為、サウンドは打ち込みを中心としたサウンドになっており、最先端のものとはいえない、むしろ堂々と古臭さのあるサウンドなのですが、透明感のあるボーカルは全く衰えていませんし、流れるようなメロディと研ぎ澄まされたプロダクションで『Let's Change the World with Music』は展開していき、ほぼ完璧といっても良い程のPrefab Sproutアルバムに仕上がっています。前作『The Gunman and Other Stories』から比べてかなり打ち込み色が出ていると思うのですが、その古臭さというかチープさが逆にPrefab Sproutの最盛期であった80年代の空気が蘇った様なサウンドを演出しているし、見事にリスナーの期待に答えた作品になっていると思います。
本人がBrian Wilson『Smile』に励まされながら製作したと語っている様に、完璧なポップミュージックを追い求めるPaddy McAloonの姿はBrian Wilsonと重なりますし、実際に『Let's Change the World with Music』は93年に製作が開始され棚上げになっていたものを再構築した作品で、その経緯は『Smile』作成の経緯と重なる部分があります。しかし『Smile』『Let's Change the World with Music』を比べると同質の様で実は大きな違いがあるように感じます。『Smile』以降のBrian Wilsonの作る音楽にはどこか開き直りに近いものを感じるのですが、『Let's Change the World with Music』は完璧なプロダクションで、『Smile』に近いポップミュージックの理想郷に近付けたのかもしれませんが、その甘くて求道的な歌詞とは裏腹にサウンドは悲しみに満ち溢れている様にも聞こえます。それはPaddy McAloonが終わりを意識しているからだと思うし、『Let's Change the World with Music』が悲しみの果ての音楽である事で、よりポップさが際立っている様な気がしています。今年聞いたアルバムの中で一番美しくて悲しいアルバム。そんな安っぽい形容詞しか用意出来ない程、『Let's Change the World with Music』は鮮烈な印象をリスナーに残す作品になっていると思います。

Let's Change the World With Music

Let's Change the World With Music

国内盤もしっかりと出ていますね。
レッツ・チェンジ・ザ・ワールド・ウィズ・ミュージック

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