Manic Street Preachersの『Journal For Plague Lovers』が原点回帰にならなかった理由

Manic Street Preachers『Journal For Plague Lovers』が前評判とは違う印象を受けるアルバムに仕上がっていたのでご紹介。

Manic Street Preachersの最新作『Journal For Plague Lovers』は、まず前情報として15年振りにRichey Edwardsの残した歌詞から製作される作品で、プロデューサーはSteve Albiniが起用されるという情報があり、内容的には『Holy Bible』時代に回帰した様な鋭角なギターが鳴り響く、内向的でハードなサウンドが予想されていました(ジャケットの絵も『Holy Bible』と同じJenny Savilleによるもの)。しかし、その内容は予想されたサウンドと異なった、別次元の作品になっていたので最初は大変戸惑いました。
まず、『Journal For Plague Lovers』『Holy Bible』に比べるとメロディアスで、歌詞は確かにRichey Edwardsのものらしく難解な単語が使われているのですが、『Holy Bible』の頃の様に言葉が詰め込まれた感は薄れ、メロディとの調和が取れてきている様に感じました。これは当然、他のメンバーによって歌詞が補足されたり、調和を取った部分もあるのでしょうが、懐かしさと新しさが同居している様で逆に新鮮に感じました。『Holy Bible』で感じた閉鎖的な空気も『Journal For Plague Lovers』にはないですし、ニューウェイブ的なアプローチは影を潜め、アナログ録音のライブ感を活かしたようなロックンロールサウンド『Journal For Plague Lovers』の中心を担っています。
また、Steve Albiniのプロデュースも決してオーバーワークになり過ぎず、全体的にはヒリヒリとした緊迫感あるサウンドを感じさせるものの、Manic Street Preachersのメロディの力がサウンドを上回っている印象を受けます。タイトル曲である「Journal For Plague Lovers」Rushの影響をモロに感じさせる楽曲になっていたり、 サウンド面では様々なアーティストからの影響を打ち出しており、パンクだけでなくハードロックやプログレッシブ・ロックの影響も感じる作品なのですが、それらのサウンドが生々しく響く中でも、耳にはメロディがしっかりと残るのが『Journal For Plague Lovers』の最大の特徴だ思います(特に「Jackie Collins Existential Question Time」、「Facing Page: Top Left」、「Pretension/Repulsion」の三曲のメロディが素晴らしいですね)。原点回帰を目指して作られたはずのアルバムなので、殆どの楽曲が三分前後の楽曲で壮大なバラードは封印されているのですが、それでもメロディが耳に残るのはManic Street Preachersの本質的な部分だと思うし、15年を経て成長を遂げたManic Street Preachersの現在形が浮かび出てきている様にも感じます。

そして結果としてManic Street Preachers『Journal For Plague Lovers』が原点回帰というより、新たな到達点に達した様なサウンドに仕上がったのは、彼等が戦ってきた過去との完全なる決別が出来たからに他ならないと思っていて、これでManic Street Preachersがアルバムを出すたびに言われてきた再出発という言葉が本当の意味で必要が無くなったのだと思います。
Manic Street Preachersの未来は『Journal For Plague Lovers』から始まるといっても過言ではない快作。

尚、今作は当初国内盤は二枚組の限定盤(デモ音源付)が発売予定だったのですが、急遽発売が中止になりました。しかしそれが七月のNANO-MUGEN FES.2009に合わせて来日記念盤として発売される事が再度決定。レコード会社の迷走振りが目に付きました。やはり、リスナーに誠実な商売をしていかないと自然と離れていくものです。歌詞が知りたい人はとりあえず国内盤で十分ですが、限定盤は輸入盤でも発売されているのでどうぞ。国内盤にはManic Street Preachers流のプログレッシブ・ロックAlien Orders/Invisible Armies」Feltのカバーである「Primitive Painters」も収録。


このご時勢にシングルを切らないようなのでアルバム単位でどうぞ。
Journal For Plague Lovers

Journal For Plague Lovers