The Filmsが『Oh, Scorpio』で得たものと失ったもの

The Films『Oh, Scorpio』がまさかの国内盤発売で、しかも先行発売になっていたのでご紹介。

自分はデビュー作である前作『Don’t Dance Rattlesnake』を2007年度のBEST ALBUM部門の14位にしていたくらいなので、今作にも大きな期待はしていたのですが、まさかFABTONE RECORDSから国内盤が出るとは思ってもいなかったので、これは嬉しい誤算です。これだけでも応援し甲斐があるってものですが、その内容にも恐ろしいほどの変化があったので書き連ねていこうと思います。今作『Oh, Scorpio』は何といってもButch Walkerがプロデュースですので、予想された事ですがサウンドがかなりポップに変貌しており、一曲目の「Completely Replace」や七曲目の「Fingernails For Breakfast」でスペクターサウンドを大胆に取り入れている事からも分かる様に意識的に新しいリスナーに受け入れられる可能性の高いサウンドを選択しています。
ところどころにFilmsのルーツでもあるブルーズな要素やガレージぽさは残っているものの、メロディの親しみやすさから言えばどちらかと言えばパワーポップに近いサウンドで、アメリカのバンドなのにUKロックファンの心を掴んだであろうデビュー作とは違う方向のリスナーを獲得しそうです。前作『Don’t Dance Rattlesnake』で自分が一番評価していたのは、一聴すると数あるバンドの中に埋もれてしまいそうなフォロワー的なサウンドの中から覗かせるポップセンスの良さだったわけでして、その部分を拡大化した今作『Oh, Scorpio』なわけですから悪いものになるはずは無いですし、Filmsが得たものは大きいと思います。
ただし、『Don’t Dance Rattlesnake』を聞いた時に感じたロックンロールの息吹や疾走感は薄れている事も確かなので、その辺を期待している従来のリスナーにとっては辛い部分もあるのかもしれません。個人的にはもっとブルーズやハードな一面を打ち出しても良かったとは思いますし、全体的にはオーソドックスなサウンドなだけに、若干もっさりした感じになってしまった事だけが不満といえば不満かもしれません。
とはいうもののFilmsは今作『Oh, Scorpio』でブルーズとパワーポップの融合という可能性を提示出来ていると思いますし、二つのジャンルのリスナーの橋渡しが出来るバンドとして名を馳せていく可能性は高いと思います。そしてFilmsは人気者になる要素は大いに秘めているバンド(既に人気ブランドのTommy Hilfigerのキャラクターにも選ばれたらしい)だけに、自分等の音楽性を見失わずにまい進していく事を期待しております。

Oh,Scorpio

Oh,Scorpio