Bruce Springsteenの新作『Working On A Dream』がポップな作品って本当なの?

Bruce Springsteenの新作『Working On A Dream』が「ボス史上最もポップな作品」との触れ込みで発売されています。こちらにもDVD付の国内盤が到着したのでようやくご紹介。
さて、まず「ボス史上最もポップな作品」という触れ込みはどうなのか?という疑問を持ちつつ、この作品をプレイヤーに乗せたのですが、結果的にその評価は確かに間違ってはいないものの、その耳障りの良さとは裏腹にいつもと変わらないエネルギーも感じられる一枚となっていました。確かに前作『Magic』に比べるとハードなアプローチは影を潜め(『Magic』自体ポップなアルバムだったと思うがそれ以上に)、全体的に甘めな曲が多いのですが、だからといって保守的な作品かといえばそうではなく、一曲目の「Outlaw Pete」からして、いきなり8分丁度の長尺の物語調の曲(メロディとリフはKiss「I Was Made For Lovin’ You」みたいでポップなんだけど)。二曲目の「My Lucky Day」と三曲目の「Working On A Dream」はボスのポップサイドが大爆発した名曲で、冒頭から聞く人を一気に引き込んでいく勢いのある展開をみせます。中盤の「Good Eye」「Kingdom Of Days」ではロック的なアプローチを聞かせてくれるのですが、この『Working On A Dream』という作品の中心を担うというよりも良いアクセントとして機能しており、アルバムの流れを形成しています。アルバムの中盤から後半にかけてはフォークを基調として落ち着いた良曲が多く、その中にTomorrow Never Knows「Surprise, Surprise」の様な軽やかで瑞々しい楽曲が効果的に挟まれている為、特に印象に残ります。そして、E Street BandのメンバーであるDanny Federiciに捧げられた(Danny Federiciが58歳の若さで昨年亡くなった事がこのアルバムの制作にも大きな影響を与えた)「The Last Carnival」は間違いなく今作のハイライトで、『Working On A Dream』の象徴的な一曲になっています。最終曲の「The Wrestler」ゴールデングローブ賞の最優秀オリジナル楽曲賞を受賞した曲だけど、今作においては蛇足気味。もちろん、Bruce Springsteenもその事は承知の上で、ボーナストラック扱いとして収録されているので、アルバムの中の一曲とは考えない方が良い。
また、今作で目立つのが美しいコーラスワークを随所に聞かせてくれる部分(コーラスには妻であるPatti Scialfaがクレジットされているので、その辺は内助の功が発揮された形)で、この辺が今作がボス流ウォールオブサウンドと呼ばれる所以なのだと思うのですが(Tomorrow Never Knows「Life Itself」というタイトルの曲もありビートリーといえばビートリーでもある)、従来のBruce Springsteenのロックンロール+近年のルーツミュージック的なアプローチも伺えて、Bruce Springsteen流のポップミュージックに仕上がっている為、杓子定規的なポップミュージックにはなっていません。
前作から一年と少しで発売されたその敬意から考えても『Magic』『Working On A Dream』の結びつきは強く、対を成す二枚組の様なアルバムといっても良いと思うし(ジャケもリアルなボスと夢想的なボスの顔で対になっている様に感じる)、改めて前作『Magic』からの流れで『Working On A Dream』を聞くとBruce Springsteenの並々ならぬ創作意欲とバイタリティに驚かされる。新境地に挑み続けるあまり、本来の武器を失っていくアーティストが多い中、Bruce Springsteenの様にルーツに回帰しながらも、ビルドアップし続けているのは素晴らしいと思うし、理想的過ぎるアーティスト像だと思います。

微妙にジャケがでかくて収納し辛い・・・DVDはまだじっくり見てませんが、充実の内容なのでDVD付がお勧め。

見よ、このSuperbowlでの熱気を