Franz Ferdinandの『Tonight』とダブの素敵な関係

Franz Ferdinand『Tonight』がキャリア最高の意欲作といって良いほどの出来栄えになっていたのでご紹介。

ハッキリと書いてしまえば、良くも悪くもシングルアーティストであったFranz Ferdinandが、初めてアルバム単位で評価されるべき作品を作り出してきた。アルバムの統一感もさることながら全体のメロディの質は今までのアルバムより高いし、サウンド面でも細かな要素と変化を取り入れてきているのがこの『Tonight』という作品で、Franz Ferdinandの最高傑作である事は間違い無い。シングル「Ulysses」からしてそうですが、全体的にトーンが暗めで落ち着いたダウンビートのアルバムには今までにあった様な突出したキラーチューンは存在しないし、その新しい方向性こそが「Ulysses」で歌っている「新しい道」なのだと感じました。もちろんあえて突出した曲を捨てて腹八分に抑えられた楽曲を並べているのでしょうが、ポップさが完全に身を潜めているかといえばそうではなくて、今後シングルになりそうな「No You Girls」「Live Alone」「Can,t Stop Feeling」の様な曲も収録されています。一般的にはアルバムの終盤のまさかの変態エレクトロチューン「Lucid Dreams」がハイライトになるのだと思うのですが、その後に暗いフォーク調でシンプルな「Dream Again」「Kathering Kiss Me」が続いてシッポリとアルバムを締めている事が、一枚の作品としての評価を高めていると感じます。まさかFranz Ferdinandのアルバムを聞いてこんなレビューを書くなんて思いもしませんでしたが、これは嬉しい大誤算。恐らく『Tonight』は、分かったかの様な大絶賛で迎え入れる雑誌等と受け入れられないリスナーとの間で評価が二分されるのだと思うのですが、どちらにせよFranz Ferdinandにとっても大きなターニングポイントであり、記念すべきアルバムになった事は間違いないでしょう。
個人的にはこれだけコマーシャルなメロディにダブの要素を取り入れたアルバムと言えば、Primal Scream『Vanishing Point』が思い浮んで、比較されるべき作品だろうと感じました(実際に『Tonight』のSpecial Editionの二枚組にはダブバージョンのアルバムがセットになっている。つまり『Echo Dek』みたいなものだと思う。)。といっても、80年代に下世話なディスコサウンドを強く意識してる『Tonight』とは厳密に言えば方向性は違うのですが、まあFranz Ferdinandのコンセプチュアルなバンドとしての在り方はPrimal Screamと通ずる部分があるし、両バンドがダウンビートに取り憑かれたような作品を生み出しているのも興味深いところ。あと、『Tonight』の収録曲はリミックス栄えしそうな曲が多いので、シングルのカップリングなどでのリミキサーの人選などにも期待出来るのではないかと思っています。

Tonight: Franz Ferdinand (Sba2)

Tonight: Franz Ferdinand (Sba2)

Franz Ferdinand - Ulysses