Green Dayが『21st Century Breakdown』で見せた真面目過ぎる本質

という事でGreen Dayの新作『21st Century Breakdown』のレビューでも。

既にご存知の通り、前作『American Idiot』が全世界で1200万枚という驚異的なセールスを上げる事で、一気にロックンロールの未来を背負わされた感のあるGreen Dayですが、今作『21st Century Breakdown』も前作のオペラ的な構成を引き継いだ力作になっています。全体のサウンドを通して感じたのは、音が柔らかくなっている事。もちろん、サウンドのボトム自体は太くなっているのですが、前作『American Idiot』の時に感じた「硬さ」は薄れているように感じました。前作がバリバリのパンクサウンドと感じた人からすれば、今作はもう少しオーソドックスなロックンロール寄りのサウンドだと感じるはずで、個人的にはサウンド的に『Warning』『American Idiot』の間くらいに位置するサウンドプロダクションだと感じ、結果的にはともするとパワーポップといっても良いサウンドに仕上がっているのが興味深いところです。もちろん覆面ユニットFoxboro Hot Tubs『Stop Drop and Roll!!!』の様なアルバムを作ってしまうGreen Dayですから70年代フレーバーは今作も満載で、前作より顕著にロックレジェンド達のサウンドが顔を覗かせています。Green Dayが70年代からのサウンドの影響をあからさまに打ち出してきたのは『Warning』からだと思うのですが、『American Idiot』でリスナーの層が大きく広がったこのタイミングで、様々なオマージュを詰め込んできたのが興味深く、このサウンドを世界でどの様に受け入れられるのかが楽しみでもあります(恐らくこの辺のリアクションは日本のリスナーとかなりギャップが出るのではないでしょうか)。また、Billie Joe Armstrongのボーカリストとしての幅が広がった事も特筆すべき点で、一聴してそれとわかるボーカルに表現力が増した為、楽曲のイメージを膨らませる事にも成功しています。
全18曲収録で70分という圧倒的なボリューム(国内盤のボーナストラックは完全に蛇足。最終曲のThe Whoサウンド「See the Light」で終るのが正しい終り方)から分かる様に、かなり重たい印象を受けるアルバムなのですが、サウンドのバリエーションが増えた事が楽曲の印象を重たくさせていませんので、そのボリュームの割に聞き難さは感じませんでした。この圧倒的なボリュームのアルバムをダブルアルバムなどにしなかったところにはGreen Dayの気骨を感じますし、各楽曲のクオリティにバラつきが少ない事も特筆に価すると思います。確かに、今までのGreen Dayのアルバムに比べると圧倒的なキラーチューンは少なく感じるのかもしれませんが、全曲がある一定のレベルをクリアしながらコンセプトで曲を紡ぎ物語を描き切っているので、そこまで望むのは酷なところ。とはいっても、実際は先行シングルの「Know Your Enemy」の他にも「¡Viva La Gloria!」、「Last of the American Girls」、「21 Guns」の様にシングルカットされてもおかしくない楽曲も収録されており、それが楽曲の多さで印象が薄れて埋もれがちになっているだけで、決して楽曲やメロディの質が低下した様には感じませんでした。
また、アルバム全体の構成もしっかり練られたものになっており、比較的ポップな楽曲を第一章と第三章に配置し、歌詞の内容がもっともシリアスな第二章にはサウンド的に変化のあるものが配置されているのは計算通りだと思います。構成と歌詞で趣意を伝え、コンセプトアルバムとして機能させているのは当然なのですが、曲間の繋ぎの部分も上手くミックスしてある箇所が多く、最低限のSEやインスト的な要素のみで、まるでラジオ局の一日の放送の聞き通している様な仮想現実的な感覚(実際にラジオというキーワードがこのアルバムのコンセプトの一端を担っていると思う)を得る事が出来るのも『21st Century Breakdown』の素晴らしいところだと思います。

基本的にGreen Dayってもの凄く真面目なバンドだと思っていて、今作でも非常にシリアスなテーマに正面から取り組んでおり、知らず知らずの間に色々な業を背負わされてきたGreen Dayのバンドとしての役割は今作『21st Century Breakdown』で十分に果している様に感じます。その姿勢自体は非常に心撃つものではあるのですが、逆に憂うべき点にもなっており、行き着くところまで行き着いたGreen Dayが次の到達点を見つけるのは困難を極める様な気がしています。とりあえずはFoxboro Hot Tubsの様な課外活動で息をつきつつ、次の地点を探し出して欲しいところです。今はとにかく精一杯のアルバムを届けてくれた事に感謝。

歌詞・対訳付きの国内盤か格安の輸入盤か迷うところ。

21st Century Breakdown

21st Century Breakdown

21st Century Breakdown - Green Day