Red Hot Chili Peppersの『I'm with You』が軽やかで枯れながらも瑞々しいサウンドに仕上がった理由

Red Hot Chili Peppers『I'm with You』を聞いています。
ご存知の通り、Red Hot Chili Peppersの新作『I'm with You』John Fruscianteの脱退後のアルバムで、大きな変化をもたらしたアルバムです。事前に予想された通り、アルバムには賛否両論の声が寄せられ、John Fruscianteの天才的なギタープレイを惜しむ声、薄まったファンクに対する失望の声、他にも地味で凡庸なアルバムだと切り捨てるネガティブな意見も多く見られているように思います。でも、個人的には全く違う印象を『I'm with You』から受けていて、まあハッキリ書いてしまうと『I'm with You』は前作『Stadium Arcadium』よりも好きなアルバムに仕上がっています。確かに『Stadium Arcadium』John Fruscianteの才能が遺憾なく発揮された凄みのあるアルバムだったとは思うのですが、一方で肥大しすぎたバンドの到達点というか、あの体制でのRed Hot Chili Peppersの終わりを見たような気がしていました。『I'm with You』を聞いて思ったのは随分バンドが身軽になったという事で、サウンドは軽やかで枯れながらも瑞々しく、60分という時間を感じさせない軽いアルバムだという事。でも音がスカスカというかといえばそこはやっぱりRed Hot Chili Peppersで、ギターが控えめになった分リズム隊が際立ち、分かりやすく飛びぬけたファンクネスは無くとも、ジックリと躍らせる腰の据わったグルーヴを聞かせてくれていると思います。
そして確かに『I'm with You』には飛び抜けた様に分かりやすいメロディは少ないのですが、前作で見られたウェット過ぎるRed Hot Chili PeppersRed Hot Chili Peppersを意識し過ぎるあまりに過剰に泣き濡れたメロディラインは陰を潜め、全体の旋律で勝負する様な総合力の高いメロディが全体を占めています。新メンバーであるJosh Klinghofferのプレイは手堅く、勿論のJohn Frusciante様な煌きのある印象的なプレイでは無いものの、すっかりバンドのパーツとして機能していますし、彼のコーラスのスキルの高さがAnthony Kiedisのボーカル(Anthonyのボーカル自体が円熟味と優しさを増して非常に素晴らしい仕上がりだと思う)とシッカリと噛みあう事で、Red Hot Chili Peppers史上で最も歌とコーラスに重きを置いたアルバムに『I'm with You』は仕上がっていると思います。シングルになっていた「The Adventures of Rain Dance Maggie」は個人的にはRed Hot Chili Peppersの曲でベスト10入りするぐらい好きな曲ですが、アルバムの中央に配置される事でドッシリと印象的に響き、他の楽曲を下支えするような存在感を放っています。
アルバムは「Monarchy of Roses」の荒々しいギターで幕を開け、サビの開放感のあるメロディとの落差が気持ち良いこの楽曲は、アルバムのオープニングに相応しい楽曲、続く「Factory of Faith」は従来のRed Hot Chili Peppersの流れを汲むファンクロック、そしてアコーステックギターから美しく展開していく「Brendan's Death Song」と冒頭の三曲でいきなり幅広いサウンドを聞かせてくれています。他にも「Look Around」は途中で「By The Way」風のラップが聞こえてくる部分があって、前作までのRed Hot Chili Peppersリスナーも楽しめる楽曲だと思うし、その一方では「Police Station」の様な穏やかな曲も印象に残ります。
また、全体的に鍵盤やシンセサイザー、ホーンにパーカッションなど様々な楽器の要素が大胆に配置されているのも、今までのRed Hot Chili Peppersには無かった新鮮な部分だと思いますし、枯れながらも瑞々しいという特異なアルバムに『I'm with You』が仕上がっている事に大きく貢献していると思います。
「Ethiopia」「Did I Let You Know」等の楽曲にはその傾向が顕著に表れ、「Happiness Loves Company」の様にピアノが中心の可愛らしい(まさかレッチリの楽曲でこんな表現使うなんて思わなかったけど)ポップソングがあったり、、アルバム最終曲の「Dance, Dance, Dance」なんてトロピカルでアフリカンで軽妙な楽曲であったりと、とにかく新しいアプローチでアルバムの最後まで楽しませてくれます。
という事でツラツラと書いてしまいましたが、拳を突き上げる様な高揚感や叫びたくなる様な衝動が無くとも、自然と体が動き出して口ずさんでしまう様なアルバムそれが『I'm with You』だと思うし、新生Red Hot Chili Peppersが進みだした素晴らしいはじめの一歩がシッカリと刻まれたアルバムだと思います。今までのRed Hot Chili Peppersの印象に縛られ過ぎずに楽しんで欲しい一枚。ぜひ繰り返し聞いてみて下さい。

I'm With You

I'm With You